第3回人材アセスメント論

1.ディメンションの定義と相関性
ディメンションは雇用、昇進、選抜などの指標として使われることが多いため、定義は正確で明確であることが重要である。人間の行動はすべからくそれぞれ相関関係があるため、明確な境界線を付けるのは難しい側面がある。むしろ、ディメンションは糊代の部分があるということを前提にしているともいえる。
例えば「影響力」「説得力」はともに人に対する働きかけであるので関連性が高く、糊代の部分も大きくなる。通常は「影響力」は集団の場面で、また、「説得力」は一対一の面接の場面でそれぞれ診るように使い分けている。これらを前者は「対集団影響力」、後者を「対個人影響力」として診る場合もある。
「表現力」はコミュニケーション・スキルだが、カッツは大きく捉えて対人スキルに入れている。また、「ストレス耐性」は「持続力」に影響を与えることが多い。それだけではなく「ストレス耐性」は「影響力」「表現力」「感受性」「判断力」など他のいろいろなディメンションにも影響を与えることがある。例えばストレスのために冷静さを失えば、判断ミスを来し、人を思いやるゆとりも失われ、言葉も早口になって分かりづらい、といった状態がそのような場合である。
また、一つのディメンションにおける優れた点が、他のディメンションにおける弱点を補うこともある。反対に、一つのディメンションにおける弱点が他のディメンションの弱点を悪化させることもありえる。例えば、性急な意思決定をする傾向は、分析スキルに弱点のある人物の場合には、リスクを大きくしてしまうだろう。また、あるディメンションがあまりに高すぎるのも問題になる。感受性が非常に高く、自分の決定によって影響を受ける人々の感情に配慮するあまり、思い切った手を打てない管理職がいたとすれば、その好例である。
一方、もし仮に厳密に境界線を定めて定義付けしたとしても、実際アセスメントを行う際、その境界線はあまり意味を持たないことになる。何故ならある行動を意味づける際、そのデータは複数のディメンションに関連づけていくからである。アセスメントは各種のシミュレーション(演習課題)のデータの統合によって行うものであるが、一つのデータは一つのディメンションに当てはめるとは限らない。
演習ごとの評定の段階では、むしろ、複数のディメンション(通常2乃至3)に当てはめていくことのほうが多い。そのようなプロセスを経て最後にデータの全貌を把握しつつ本人の全体像としてのプロフィールを描くことになる。その一連の作業は、色々な絵の具を塗り重ねて次第にその人物の独特の色合いを出していくもので、いわば絵画を描く過程に似ている。

 

2.アセスメントの信頼性・客観性
人材アセスメントの理論を体系化したことで著名な故豊原恒男教授(国際商科大学)は、人材アセスメントに付いて以下のように述べている。『人材アセスメントの特色は、異なった状況場面で各人がどのような能力特性を示すかを“部分観察”する事にある。“人間構造は智・情・意などの活動を加算的総和として捉えるのではなく、全体をくずさないでいろいろな視点から捉えていく部分の集積的総和”として把握するものである。つまり、人材アセスメントは異なる角度から写し出した各演習場面における人物のプロフィールを立体的に集積して一つの彫刻を造る作業であるといえる。』
このように、この彫刻作業が本人の特色を正確に示すためには、プロフィールを描く人、彫刻する人との共同作業が必要となる。主観を出来る限り客観化するために、アセスメントの観察は訓練を積んだ複数の人間が共同作業することを前提としている。しかし、人間が人間を見るわけなので、人によって見方が千差万別であるのはこれまた当然である。したがって如何に訓練を積んだアセッサーであっても微妙に違いが生じることがある。むしろ、異なる見解を出来るだけ多く出し合ったほうが、客観性が高まるものである。一見ファジーと映るアセスメントの作業が最終的にはかなり正確に人物のプロフィールを描くことが出来るのはデータのお陰であるのは勿論、案外、データの処理方法にその秘密があるかもしれない。いずれにしてもアセスメントの信頼性・客観性を高めるのはデータ収集の質と量である。
(了)

 

(注)DDI:Development Dimensions International。人的資源の活用・育成・管理分野における人材コンサルティング会社。同社はアセスメントを民間企業のマネージャー選抜の手法として初めて整備し、システム化したことで知られている。設立は1970年、本部はペンシルベニア州ピッツバーグ(Pittsburgh)にあり、創業者はダグラス・ブレイ博士である。
MSC:(株)マネジメントサービスセンター。1966年設立。1972年、DDI社と技術提携してアセスメント技法を日本で初めて紹介し、HA(ヒューマン・アセスメント)の呼称を広めたことで知られている。

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