第1回人材アセスメント論

1.人材の特性を診る試み
ヒトの特性や能力を見極めようとする試みは昔から多くの人が、試行錯誤を繰り返してきた。それはまさに“何をさせてどう診るかの苦闘の歴史だ。今や多くの企業や公官庁で行われているアセスメント研修(人材の管理能力の診断)は、さまざまな工夫を凝らした演習課題を使う。それは実際の職場を想定して作られたものであり、ストーリー性や現実感を織り込んでいる。いわばそれが一つの舞台設定であり、そこで参加者(学習者)が演じるさまざまな“行動”を観察して、行動特性を見ようとするものである。本人がその舞台で、何回も同じ動作を繰り返すとか、ある刺激に対して似たような反応を見せるなど、本人の特性を示す行動”が見て取れたなら、それが本人の特性と考えるのである。また、職務に関するいくつかの役割を与え、その役割遂行に必要な能力の発揮度を観察し測定すれば職務遂行能力(ディメンション)が把握できる。ディメンションは類似した管理行動群をひとくくりにして、感受性、分析力、実行計画力などの名称(ラベル)を付けたものである。これについては後述する。

 

2.アセスメントプログラムの歴史
1)演習行動テストの発祥と発展 -リーダーシップ行動診断のための状況テストの基礎確立
状況演習テストは、アセスメントセンター方式の最大の特徴の一つである。その歴史は、初期の心理検査の中で演習行動テストの一つとして用いられたことから始まる。演習行動テストとは、被験者に口頭、文章作成、図表作成、身振り手振り、機器の操作など、何らかの行動でも回答を要求する非言語的テストの事である。演習行動テストは、筆記テストに比べて、被験者に遥かに複雑な刺激を与え、複雑な行動による回答を要求するものである。また、状況演習テストとは、現実的な、あるいは実生活を模倣した場面の中で行われる複雑なテストである。このテストは、唯一の正解がないことを前提とするのが一般的で、目に見える実際の行動を要求することが多く、また、対人場面を含むことが多い。

 

2)アセスメントの起源
人間の能力を科学的に研究するために、さまざまな測定方法を開発したのは、1800年の終わりのフランシス・ガルトン卿である。彼は、肺活量、握力、色調や色彩の識別能力、手先の器用さなど、人間の能力を客観的に測定する手法を考案し、その道の第一人者としての功績をあげた。それを受け継いで、キャテル、ビネー、ウッドワース、ノックス、ピンターとパターソンなどによって様々な研究が行われた。
初期の頃は、特殊な職務への適性を目的とした演習行動テストを用いることが多かった。リンク、ダッジ、ヘイモンなどがこの研究で知られている。臨床医療、機械技術、組み立てなどの職務能力の診断に、演習行動テストや技能テストが有効であることも、このころに発見されている。

 

3)第一次大戦後の研究
管理者向けの演習行動テストの大きな進展は、ドイツの心理学者フレドリックセンによるインバスケット演習の研究である。インバスケット演習は、1953年に米国空軍の教育診断局が、航空学校の教育課程の効果性を診断するために開発したのが始まりであり、それは、断片情報を組み合わせて複雑な状況から問題を発見したり、問題の影響を予測したり、熟慮の上で意思決定を下す能力を診断するものであった。演習行動テストの分野へのインバスケット手法の導入は、組織の管理職のためのアセスメントへの道を開いたのみならず、分析演習や報告書作成演習などの新しい種類の演習の開発を刺激することとなった。

 

参考文献:Assessment Center and Managerial Performance

 

3.インバスケット学習法
人材アセスメントで用いられるケーススタディの中で、優等生はインバスケットである。インバスケット演習は学習者の特性や能力が引き出せるように巧妙に作られている。これは、管理者のー般的な日常業務にまつわる、さまざまな事案に直面したと想定して様々な意思決定をする、というものである。インバスケットそのものが、一つの仮想現実的なシミュレーションである。
インバスケットが一般企業で活用されだしたころは、未決書類の決裁と言う形で行われていたので数十枚の書類や封書を渡される形式だったが、現在は、電子メールが一般化して、全てペーパーだとそれ自体に違和感があるので、最近のインバスケットはパソコンにメールが溜まっているという設定にしているケースが多い。ただ、一部は机上の伝言メモやクレームレターなどとして従来通り未決箱に入っているという設定にしてリアリティを出している。

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