1.評定者のアナログ機能とデジタル機能
“花は描こうとしてよく見える”、これは、ソニーの創始者であり、幼児教育にも造詣が深かった井深大氏のことばである。ヒトの長所というものは、それを真剣に見出そうとすれば良く見える、ということだろう。ヒトは他人の行動を見てその意味を解釈したり、その人物の人格・人柄といったものを見抜いたりする。
ある人物のことについて述べるのを聞いて、なかなか的を射ていると感心することがある。例えば、“彼は普段は地味で目立たないが、いざというときの行動力があるので仲間から結構頼りにされている。”とか、“彼女は芯が強く、一見、気が強そうに見えるけどあれでなかなか繊細で思い遣りのある人だ。”などと言う。このような何気ない言葉の中に、的確な観察眼といったものが見てとれる。要するに、このような人物評は相手の行動を良く観察し、そのシグナルを情報として受けとめ、的確に特徴を掴んだからこそできるのだ。
ケーススタディの限られた時間の中で特性を診る場合も、評定者は行動観察に徹する。
言うまでもなく評定者は、鋭い観察力とデータ分析力が必要だ。前述した多面的な角度から能力診断する人材アセスメントの場合も、2日~3日間の研修期間を設けて、さまざまな演習(ケーススタディ)を組み合わせて実施する。その間、評定者は右脳と左脳、つまり“行動観察”のアナログ機能とデータ分析”のデジタル機能の両方を交互に使い分けながら能力特性を明らかにしていく。その際、常に本人の全体像を崩さないようにして部分の集積として立体的にデータを捉えることが重要なポイントとなる。
2.アセスメントの指標“ディメンション”とは
ディメンションはアセスメントを実施する際のマネジメントの能力要件である。ディメンション間には重複している部分が少なからずある。いわば“糊代”のようなもので、実はディメンションはもともとこのような性質を持っているのである。ディメンションの定義をDDI―MSC方式(注)では以下のように説明している。
『ある目標職務を成功させる行動も、失敗させる行動も細かく分類しようとすると、どこまでも細かく無限に分類できる。つまり、目標職務に関連する行動(Behavior)は職務の範囲、対象、背景がそれぞれ異なることから、無数に存在して、全く同じものはないといえる。行動理論的なアプローチでは、すべての目標職務をカテゴリーに分類して、個々の行動の共通機能性を発見し、それを枠で囲み、囲んだ一群の諸行動にラベルを付ける。これを“ディメンション”と呼んでいる。ディメンションはアセスメントを行う際、演習中のアセッシーの態度、行動、発言を観察評定する着眼点であり、行動を機能的類似性に基づいて分類した呼称である。』
つまり、ディメンションはさまざまな行動を便宜上ひとつのグループとしてくくり、それに名称を付けたものといえる。従って、どのようにくくり、分類するかで名称も異なることになる。くくり方に絶対的な基準があるわけではないが、大きい分類では、例えばR・カッツの「コンセプチュアル・スキル」「ヒューマン・スキル」「テクニカル・スキル」といった3つの分け方がある。
アセスメントによる人材の能力診断では、それをさらに細分化して実施する。アセスメントの発達史で有名なAT&T社の初期のプログラムでは32個のディメンションをリストアップしている。ただ、実施する段階では通常は対象者、目的に応じてその中から15~20個のディメンションを選択する。選択する際、少なすぎると特性を説明するのが難しくなり、また、逆に多すぎると作業が繁雑になりアセスメントの実施に支障を来す。