多様な人材活用によって得られる効果の2点目は、「企業不祥事の未然防止」です。世の中で起きた様々な企業不祥事を見ていくと、不正の根底に「今までこれでやってきたから大丈夫だろう」という馴れ合いの気持ちがあることに気づきます。
A社の品質データ改ざん事件では、出荷前検査の結果が顧客仕様を満たさない場合に検査結果の数値を書き換える行為を1970年代から行っていたといいます。顧客が要求した品質は満たさないが不良品とまで言えないような場合、誤差の範囲として取り扱っても問題ないとして、顧客に許可をもらうことなく出荷していたというのです。複数の役員は、工場長や品質保証室長であったときに、このような不正行為があったことを知っていたにもかかわらず、止めることも報告もしなかったというのですから大変なことです。ここでは過剰スペックの放置と不正行為の見過ごしという2つの問題を指摘できます。
また、2005~2008年頃、損害保険会社・生命保険会社による保険金不払い問題が起きました。損害保険では、自動車保険の競争激化により様々な特約を付けて特色を出そうと商品が複雑化した結果、付随的な保険金の不払いが大量発生しました。生命保険では、同様の付随的な給付金の請求勧奨漏れや、バブル崩壊後の逆ザヤ現象の下で死亡保険金の不当な不払いなどが起きました。競争激化やバブル崩壊による経営環境の悪化を理由に顧客軽視の行為が行われたことは重大な問題であり、金融庁による行政処分も行われました。ここでは顧客本位ならぬ会社本位の経営方針の問題を指摘できます。
コンプライアンス問題に詳しい弁護士の國廣正氏は、企業不祥事を防ぐためのキーワードとして、「多様性」と「ガバナンス」を挙げています。つまり、組織の中に女性、外国人、中途採用者といった異分子を取り込むことで、「内部に波風が立ち、皆が同じ方向に進む危険性が緩和される」というのです。「高度経済成長モデルの原動力になった同質集団の効率性を妨げることが変化の激しいこれからの時代を乗り切るための力にもなる」と國廣氏は言っています。そして、このような多様性(ダイバーシティ)を会社組織の仕組みとして取り入れるのがコーポレートガバナンスということになります。社外役員や女性役員の人数が問われるのは、そのような理由からです。
同質な人間が集まることによる弊害を避けること、つまり、これまで男性中心社会で何の問題もないとされてきたことに対して予定調和を崩す効果が女性活用にはあるのです。